趣のある蔵造りの商家が並び、ウナギ、サツマイモのスイーツ、地ビールといった食も充実した小江戸・川越は観光地として人気ですが、実は住む街としても大きな魅力を秘めています。いま注目の街、川越を歩きます。
川越は古くから交通の要衝として栄えてきた街。江戸時代には主に舟運によって江戸と緊密に連携し、現在は西武新宿線、JR川越線、東武東上線の3路線で東京都心へ軽快にアクセスできます。「川越」駅から東武東上線で「池袋」駅へ直通約37分。新宿方面へは全車両始発の西武新宿線「本川越」駅が便利です。
人が集まる川越では、川越藩の城下町であったこととも相まって、古くから商業が盛んでした。堂々とした蔵造りの商家が並ぶ「川越一番街商店街」は川越の商いの歴史を今に伝える通りで、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。お味噌のパンが人気の「川越ベーカリー 楽楽」の店舗は伝統的な川越の町屋を再現したもの。住む人の心に誇りを育てる、美しい街並です。
「川越ベーカリー 楽楽」のパンは天然素材を使った手造り。建物も無垢材を使用して伝統工法で建てた
古い街並の単なる保存ではなく、時代の変化に合わせた活用に熱心に取り組んでいるのもこの街の特徴で、古民家・古商家をリノベーションした施設がいくつも生まれています。ゲストハウス、カフェ、バーとして使われている「Chabudai」もそのひとつ。若いスタッフを媒介に世代を超えた交流が生まれ、街の活性化につながっています。交流といえば「CAFE & SPACE NANAWATA」も忘れてはいけません。コンサート会場やギャラリーとしても使われているこの店は、スイーツ・音楽・アートで人と人を結んでいます。歩くたびに発見があり、人との交流で毎日が輝く。川越は住む人を元気にする街です。
「CAFE & SPACE NANAWATA」の一推しのスイーツはカラフルなエクレア。県産の小麦粉と放し飼いの卵を使い、店内で手作りしている
川越の中心エリアには、市役所、図書館、美術館などの公共施設が集まり、利便性の高さも備えています。また「初雁公園」、「喜多院公園」、新河岸川沿いの桜並木、「川越氷川神社」といった、季節を感じながら散策できる場所もあります。
川越の街を語るにはその賑わいと将来性を忘れるわけにはいきません。「川越」駅と「本川越」駅を結ぶ商店街の「クレアモール」と「丸広百貨店」には近隣からも多くの人が訪れています。「川越」駅「本川越」駅周辺エリアは市によって「都市的活動核」と位置づけられ、将来を見据えた開発が進められています。「ウェスタ川越」「U_PLACE」「川越マイン」といった大型施設がオープン。エリアではマルシェやフリーマーケットも頻繁に開催されています。川越の暮らしやすさはますます進化していくでしょう。
川越といえば、やはり「蔵造りの街」。重厚な蔵造りの商家が美しく並んでいて、まるで野外博物館のようです。しかしよく考えてみれば、この川越の蔵造りの街「川越一番街商店街」は、その名の通り、商店街。人々が笑顔で交流し、新しいモノやコトと出合う場所なのです。
ディテールにも見どころが多い。NHK朝の連続テレビ小説『つばさ』では主人公の生家として外観が使われた
「『川越一番街商店街』へようこそ。ここは室町時代からの歴史が残る街です。明治時代に起こった大火をきっかけに蔵造りの建物がたくさん造られました。今も20棟ほど残っていて、ここで商売を続けています」
そう教えてくれたのは「陶舗やまわ」のご主人である原 知之さん。「川越一番街商店街」のほぼ中央に位置する陶器店「陶舗やまわ」の建物も、もちろん蔵造り。原さんは明治26年に建てられたこの建物の2階で生まれ、育ちました。
「この界隈は昭和20〜30年代は川越の商業の中心地で、とても賑やかだったそうです。でもこの通りにあった『丸広百貨店』さんが駅の方に移転したころからお客さまがそちらの方に移動して、閑散としてしまったんです。今の賑わいからは想像できないかもしれませんが」
転機が訪れたのは平成元年。NHK大河ドラマ『春日局』のゆかりの場所として川越の「喜多院」が注目され、観光客が増えました。商店街のお店は市と県から助成金を得て店舗を次々と改装し、整備して行きます。原さんの店も平成元年に改装し、喫茶店を併設。陶芸教室も始めました。街は電線の地中化を成し遂げ、平成11年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
敷地奥の蔵で開講している「やまわ蔵部 陶芸教室」。1時間程度の「おためし体験」から、本格的に陶芸を学べる長期教室まで、さまざまなコースが用意されている
国からのお墨付きをもらうと、過去の風景をそのまま保存したような、動きのない街になってしまうおそれがありますが、「川越一番街商店街」はそうはなりませんでした。
「昭和58年に発足した『川越蔵の会』が中心になって、私たちはこの歴史ある街をどうして行くかを考え、街づくりに積極的に関わってきました。会の根底にあるのは『商売がうまくいかなければ保存はありえない』ということです。保存、再生、活用ですね。会員には商店主だけでなく、大学の都市計画の先生、建築士、歴史家、学生や、一般の人もいます。それぞれが対等な立場で、仲間みたいな感じでいろんな話をしています。それがすごくうまく行っているんだと思います」
「川越蔵の会」が発足して40年。活用を前提とした保存のあり方、誰にでもオープンな姿勢は周囲に波及し、いま川越は若く意欲的な人たちの目に魅力的な街として映っているようです。古民家・古商家を改装した、ゲストハウス、ギャラリー、デザインオフィス、お洒落なバーやカフェなどが次々と生まれています。もしかしたら川越の蔵の中には、人々に次の一歩を踏ませるエネルギーが詰まっているのかもしれません。
協力:陶舗やまわ
※掲載の情報は、2023年11月時点の情報です