都心では稀有な南斜面のヒルトップにあり、古くから邸宅街として知られる一角にたたずむ「プラウド新宿中落合」。土地の歴史が持つ気品、広がりのある空との連続性、大地に根ざす堅牢さ。三つをバランスよく調和させた建築の魅力と開発の経緯を担当者が語ります。
「プラウド新宿中落合」の敷地はもともと企業の社員寮が建っていた土地で、下落合駅から坂を上った南斜面の高台にあり、周辺には低層の住宅街が広がっています。
そんなヒルトップの軽やかさや風の流れを表現するには、重厚感のある集合住宅というよりは、美術館のように少し軽さや新しさが感じられる建物にしたいと考え、デザイン監修をお願いしたプランテック総合計画事務所と一緒に、設計コンセプトを練っていきました。
その結果、掲げたのが「歴史」「空気」「大地」という三つの柱を「紡ぐ邸宅」というコンセプトです。この近辺は古くから多くの華族や文化人が居を構えてきた由緒ある邸宅街であることから、そうした歴史が培った気品を継承し、広がりのある空や高台の空気感に調和させ、低層住宅が建ち並ぶ大地に根ざす館としての堅牢さも表現する。三つの要素をバランスよく生かしたいと考えました。
それが象徴的に表れているのが、まず北側の外観です。低層マンションならではの横に広がる美しいファサードは、木目を写し取った基壇部の大判タイルによって大地のイメージを、ガラスの箱を並べたような上層階の意匠によって空につながるイメージを表現しています。
次に、エントランスから内部に入ると、地下とつながった大きな吹き抜けのエントランスホールがあります。
この吹き抜けに面して、風の流れを象徴するワイヤーメッシュカーテンを配しました。カーテンといってもステンレス製で非常に重く施工は大変でしたが、わざとゆるませて吊ることで、上から照明を当てるとまさに紡いだ布のように見え、実際に風も通ります。
このメッシュカーテンづくりに際し、都内の採用現場をいくつも見て回ったところ、ピーンと張って外装に使われているものは工業材料っぽい印象で住宅にはそぐわないのですが、ショーウィンドウの背景として吊ってあったり、飲食店の間仕切りに使われているものは、ゆるませた吊り方や照明の効果でまったく違ったものに見え、重苦しさも感じられませんでした。同じ素材でも使われ方によって見え方が大きく異なることがわかり、吹き抜けの空間を活かす素材として採用しました。
階段を降りていくと中庭に面したラウンジがありますが、この中庭の植栽にも忘れられない思い出があります。限られた面積なので低木を1本だけ植えたいと考え、実際に造園業者と植木畑を回って見つけたのが今のドウダンツツジですが、実は隣家の畑に植えられていた木だったのです。オブジェのような樹形が気に入り、お隣と交渉の末、譲っていただいたものです。新緑、白い小花、紅葉と住民の皆さんに季節感を楽しんでいただけたら幸いです。
共用廊下のデザインにも気を配りました。外廊下を採用しつつ、できるだけプライバシー性を高める工夫をしました。北側外観に表れた上層部のガラス部分は、意匠性を高めるだけではなく外廊下と外部を仕切る目隠しの役目を果たしています。ガラスのパーティションによって、外からの視線を遮りながら光や風を取り込むことが可能になり、外廊下は明るく開放的な半内廊下になりました。
また、各戸の玄関ポーチの脇には吹き抜け空間を設け、ここからも光や風を採り入れています。通常の外廊下のマンションだと、廊下に面して個室の開口部を設けることが多いため、プライバシーが気になるところですが、この吹き抜けによって廊下との間に距離が生まれ、中に住む人が安心なだけでなく、廊下を通る人も気を遣わずにすみますし、個室の窓も吹き抜けに面して設けることで面格子が不要になり、見た目もすっきりします。
「プラウド新宿中落合」の大きな魅力は、敷地が南斜面のヒルトップの最前列にあり、目の前に高い建物もないので、4階建てという低層にもかかわらず、タワーマンションのような眺めが遠望できる点にあります。
ただ全住戸からその眺望が享受できるわけではないため、限られたスペースであっても共用空間の付加価値を向上させたいと考え、屋上に居住者専用の共用ルーフテラスを設けました。眼前に新宿の摩天楼を一望することができる贅沢な空間です。
出来上がって意外だったのは、ご購入いただいたお客様が、想定より若かったことです。お子様が生まれたばかりですとか、これから生まれる予定というご夫妻も、多くいらっしゃいました。
軽やかで美術館を彷彿とさせるようなデザインが、若い世代のお客さまの心にも響いたのだとしたら、うれしいことです。
写真 : 新 良太
※掲載の情報は、2018年3月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部事業推進一部推進三課 山下りえ
大学の設計課題でいちばん好きだったのが住宅で、それが今の会社を選んだきっかけの一つです。建物の中で一人一人がどういう動きをするかとか、ここにこんなものがあるとうれしいといったことを考えるのが好きで、大規模なビルより住宅のほうが身近で想像しやすかったからです。建物の設計に携わっていると、外観や空間デザインに注目しがちですが、そんな学生の頃の初心を忘れず、そこに住まうお客様の立場に立って考える姿勢をこれからも大切にしていきたいと思っています。