昭和初期から整然とした街並みが守られてきた、穏やかな邸宅街・柿の木坂。その一角に誕生したのが「プラウドシーズン目黒柿の木坂」です。都市にありながら、安心感と開放感を併せ持つ戸建て住宅をいかにして生み出したのか、建築の見どころを担当者が語ります。
野村不動産の分譲事業は1961年、郊外の大規模戸建て住宅地の開発から始まりました。その伝統を受け継ぎ、2003年に誕生した一戸建てブランドが「プラウドシーズン」です。時代は移り、最近増えているのが、都心に近い邸宅街に計画する都市型小規模開発で、「プラウドシーズン目黒柿の木坂」もそんな一例です。
柿の木坂といえば、昭和初期に区画整理された整然とした街並みが今なお守られた、高台の良好な住宅地として知られています。
プロジェクトのスタートはいつも、まず古い地図や航空写真などから土地の歴史や地勢を知る一方、現地の周辺を歩き回って観察することから始まります。既存の街との調和を図りつつも、馴染みすぎず、プラウドシーズンならではの個性をさりげなく表現して、街と応答できるようなデザインにしたいと考えるからです。
今回はリサーチの結果、白を基調とした外観に、アクセントとして墨や鉄を思わせる黒を用いることに決めました。
外観をデザインするとき、われわれは個々の家の形もさることながら、道行く人の目にどう映るかを最優先して考えます。つまり、街並みとしての美しさを重視するということです。
通りから見ると、黒いタイル貼りの壁面が連続していますが、この壁の内側にはテラスをしつらえています。特に都市住宅に求められるのがプライバシーの確保ですが、あまり閉鎖的になると室内の居心地も損なわれてしまいます。そこで、ここでは各戸に壁で囲ったテラスやバルコニーを設け、室内と一体化することで、安心感と開放感の両立を実現したのです。
ただし、上から下まで黒い壁で覆うと重たい印象になるばかりか、テラスに湿気がたまりやすくなるため、足元に空気の通り道をつくり、目隠しに植栽を配しました。また、壁の足元部分は白く塗装することによって、浮いたような軽やかさを出しています。
玄関まわりのタイル貼りの壁は、一軒一軒タイルの種類や貼り方を変えました。統一感の中にもそれぞれの個性をバランスよく表現し、お客様に愛着を感じていただける住まいにしたいからです。また、分譲住宅としては珍しいかと思いますが、屋根に瓦を採用しているのも、プラウドシーズンの特徴です。瓦屋根がリズミカルに続く家並みには独特の表情があります。
美しい街並みをつくるうえでもう一つ大切なのは、いかに緑をうまく交ぜながらデザインするか、ということです。
ここでは、西側のバス通りから奧に延びる私道の角の2棟のうち、一方のコーナーには常緑樹のシマトネリコを、もう一方のコーナーのテラス内には落葉樹の紅葉を植えました。他にも、各棟のテラスには一軒一軒異なる樹種の木を植えたので、黒い壁の上から梢の葉や花が垣間見えます。さらに、足元の植栽なども相まって、全体として緑豊かな景観をつくり出しています。
各棟のメインツリーは、単に外から見てシンボルになる「シンボルツリー」ではなく、室内からも楽しめる「テーマツリー」といえるでしょう。たとえば、前述の角のお宅のテラスに植えた紅葉は、玄関脇の窓や2階からも眺めることができます。また、テラスと連続するリビングから見たときの景色を考え、枝ぶりや葉の付き方まで空間にふさわしい木を慎重に選びました。テラスもインテリアの一部ととらえて、お住まいになるお客様に存分に楽しんでいただけたら幸いです。
玄関や駐車場もデザインに気を配ったポイントです。玄関はできるだけ邸宅としての格調と防犯性を高めたいと考え、手前にポーチを設け、いったん半屋外スペースを経由して、その先の奥まった玄関に至るようにしました。また、駐車場も一部の住戸に、ビルトインカースペースやシャッターゲート付きの駐車スペースを採用しています。住戸ごとに玄関や駐車場のデザインが異なるのは、立地など、さまざまな条件を考慮し、一軒一軒のベストなシナリオを追求した結果です。
内部のプランも変化に富んでいます。LDKを2階に設けた住戸もありますし、同程度の床面積でも部屋の広さにゆとりを持たせた3LDKもあれば、部屋数と収納を充実させた4LDKもあります。キッチンも同じ対面型でもI型とL型、吊り戸棚があるタイプとないタイプを設けるなど、多様なバリエーションを設けました。
都市型のプラウドシーズンは郊外型に比べ、限りある敷地の広さの中で、建物の高さやボリュームなどに対する法律上の制限も厳しく、各棟の最適なプランを決めるため、ときにはセンチやミリの単位で突き詰めて考えることもあります。
その中で開放的な住まいを生み出すのは容易ではありませんが、今回、制限を逆手にとって余白を積極的に生かし、テラス、バルコニー、ポーチといった外部空間を設け、さらに門扉、駐車場、植栽などの外構を建築とうまく融合させることで、室内に広がりを感じさせることはできると確信しました。今後も都市型に特化した、内と外を一体にした住宅づくりをきわめていきたいです。
写真 : 新 良太
※掲載の情報は、2019年2月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部戸建事業部推進二課 白川泰寛
大規模な分譲住宅地の開発、マンション、商業施設、海外事業と、これまで住まいづくりを中心に、多様な事業に携わってきました。プラウドシーズンの魅力は、集合住宅より独立性がある戸建て住宅でありながら、共同住宅のように集まって住む安心感がある点にあるのではないでしょうか。今後は、内外の一体化をさらに進め、設計の工夫によって、適度なエリアコミュニティが自然と醸成されるような街づくりができればと思っています。これからもお客様に喜んでいただける住まいを目指し、地道な努力を続けていきたいです。