都が進める「木密地域不燃化10年プロジェクト」の先陣を切って、木造住宅密集地の再開発マンションとして誕生した「プラウドタワー東池袋」。防災性の向上や新旧住民のコミュニケーションなど、さまざまな課題に取り組んだプロジェクトの見どころを、担当者が語ります。
都内には古い木造住宅が密集するエリアが多く、大規模災害時に緊急車両が入れないことが大きな課題になっています。東京都ではこうした問題を解決すべく、「木密地域不燃化10年プロジェクト」に取り組んでいますが、その不燃化特区に指定された都内53カ所のうち、初めて組合の設立認可を受けた再開発事業として建設が進められたのが「プラウドタワー東池袋」です。
都電荒川線(東京さくらトラム)が走る敷地の北側は、将来、緑化された線路の両側を道路が走る幅25mの都市計画道路補助第81号線(以下、81号線)として生まれ変わる予定です。敷地はぐるりと道路に囲まれていますが、81号線以外の外周道路も6mに拡幅し、敷地内の広場や公園など十分な空地を再開発によって確保しました。
外観は81号線に面した北側と南側とでは、表情が異なっています。敷地が変形の五角形をしていることから、そこにうまく納まるプランを考えた結果、南東側は建物全体の平面形状が凸型になりました。おかげで角部屋がつくりやすくなり、基準階となる6〜20階では85%の角住戸率を実現できました。
一方、北側は大きなボリュームによる圧迫感を軽減するため、壁から突き出した「柱型」やエレベーターホールに面したガラスの開口部によって、大きな壁面の分節を図っています。中央のエレベーターホールに面した開口部には、アルミのルーバーを設置し、中央の1本には雨樋を仕込みました。夜はエレベーターホール内部にあかりがともるので、より外観に変化が生まれると思います。
敷地を囲う垣根やフェンスが周りにほとんどないオープンなつくりも、この建物の特徴の一つです。これは防災上の配慮だけでなく、地域のコミュニケーションが自然に発生するようなつくりにしたいと考えたからです。以前、この地にお住まいだった地権者の中には、初めてマンションに入居する方々もいらっしゃいますし、周辺には既存の商店街もあります。お年寄りが多い地元住民と、新たにマンションを購入する比較的若いファミリー層、そのギャップをできるだけ小さくすることにより、コミュニティを醸成させていくことは、この再開発の大きなテーマでした。
エントランス前の緑豊かな広場空間には、道行く人々がひと休みでき、商店街の賑わいにも貢献できるベンチを配しました。L字形を二つ組み合わせた大きな黒い庇が目を引きますが、いかにシンプルに見せるか、ディテールにも気を配りました。そのため庇のアルミパネルの内部に縦樋を仕込み、雨樋が露出しないように配慮しています。
住民同士のコミュニケーションを活性化するもう一つの仕掛けが、1階の共用スペースの一角にあるコミュニティルームです。ここは豊島区と協定を結び、管理規約にも明記することで、近隣の町内会の皆さんも申し込み制で使用可能な、地域に開かれたスペースにしました。窓際にはコンセント付きのカウンター、部屋のコーナーにはクッションマット敷きのキッズスペースを設けるなど、多様な交流の場として活用できるように工夫しています。
エントランスから共用廊下に至る共用部をデザインするにあたって心がけたのは、なるべく要素を減らすことにより、内と外の一体感を出すことです。たとえば、外部の黒い庇の端部がそのまま室内まで貫いて伸びているように見せ、低層部の外壁に使ったタイルをエントランスホールや1階の共用廊下の壁にも貼ることで、内と外との連続性を持たせています。
エントランスホールは2層吹き抜けのダイナミックな空間にしました。一角に空調の室外機置き場を囲う壁が必要なこともあり、逆にここを空間のアクセントにしたいと考え、断面がコの字型をしたプロフィリットガラスを連続させた「光壁」をつくりました。その奧の壁にはアイストップとなるよう、「リン酸処理」を施すことで荒々しい表情を出した鉄のルーバーを設置する一方、梁には黒いカラーガラスを貼って存在感を薄めています。
プロフィリットガラスの光壁は、万が一部材が破損した場合の修復や背後の照明の交換を考慮して二つに分割しましたが、ガラスを支える横桟や下の幅木をできるだけ薄く軽く見せるように配慮しています。さらに、奧の鉄のルーバーの横桟や幅木と高さを揃えることによって、要素を極力減らし、すっきり見えるように努めました。
各階の共用廊下はプライバシーに配慮し、ホテルライクな内廊下にしています。全体にすっきりと美しい空間を実現するため、余計な部材が目立たぬよう、細部まで注力してデザインしました。15階以上の「プレミアムフロア」は、エレベーターホールの内装も基準階と仕様を変え、より上質な空間に仕上げています。
敷地の南側には高い建物がないため、特に高層階の住戸のバルコニーからは伸びやかな眺望が楽しめます。
豊島区本庁舎の移転を契機に、現在、東池袋駅周辺では複数の市街地再開発事業が連鎖的に進んでいます。造幣局跡地の公園や81号線も整備されれば、この界隈の利便性や快適性はさらに向上するでしょう。先見の明をもって「プラウドタワー東池袋」を選んでくださったお客様に、今後ますますこの街での暮らしを満喫していただければと願っています。
撮影:川澄・小林研二写真事務所
※掲載の情報は、2019年12月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 開発企画本部プロジェクト開発二部開発二課 添田善拓
大学院卒業後に就職したのは、再開発事業などを手がける大手設計事務所でした。空間の使われ方を具体的にイメージして建物のプランニングやデザインを検討していくことは、そこで学びました。30歳のとき、自分の可能性を広げたいと考えて、転職を決めました。今は設計者や施工者と一緒にものづくりに携わるというよりは、権利者や再開発組合に寄り添い、再開発の全体を調整する業務が中心です。これまで関わってきた仕事の集大成として、いつかオフィスやホテル、マンション、商業施設などが複合した建築を世の中に残したい──それが将来の目標ですね。