市川駅前の商業エリアと住居エリアの境界に誕生した「プラウド市川マークス」。日当たりと見晴らしのよさを最大限に生かし、街に対してシンボリックな建築を生み出すまでのプロセスと見どころを担当者が語ります。
敷地は市川駅北口から徒歩5分、ちょうど商業エリアと住居エリアの境にあります。南西側には第一種住居地域が広がり、都市の賑わいと、邸宅街の落ち着きや見晴らしを同時に享受できる得がたい場所です。この立地の魅力を最大限に生かすことが、今回のプロジェクトの大きなテーマでした。
敷地条件から、建物は敷地に対して斜めに振った配置となるとともに、多面体の形状となりました。諸条件を逆手に取り、街に対してシンボリックな建築を生み出せたのではないかと思います。
外観デザインにおいては、歴史文化が漂う市川の街に相応しい品格を創出しながらも、都心近接の都市性と大らかな開放感を享受できる舞台の価値を、その佇まいに具現化することを目指しました。たとえば、万葉集に詠われた日本の航路を示す標識「澪標(みおつくし)」をモチーフに、垂直に対して水平要素が一層ごとに織り込まれたフォルム、開放感や煌めきを象徴的に演出するコーナーサッシ、質感の異なるマテリアルの採用など、この地に在るべき存在感を描き上げています。
エントランスアプローチは、広大な車寄せ、ワイド庇、重厚な御影石により、品格のある空間を目指しました。アイキャッチとして設けた光壁は、格子と乳白ガラスで構成し、ガラスの継ぎ目が見えないよう、格子の太いラインと重ね合わせるなど、細部にまで気を配っています。
エントランスホールに入る際に目に入る駐車場のシャッター(写真の左手前)は、特殊塗装を施したパネルシャッターを採用することで空間の質を高めるとともに、奧の車の気配が感じ取れるよう、スリット窓を設けるなど、安全面にも配慮しました。
エントランスホールからラウンジまでは、光で空間の流れをつくることを意識しました。ホールでは、コーナー部分(写真右奥)や折り上げた天井に間接照明を仕込んでいます。正面のオブジェは、水面をイメージしたものです。
ラウンジも右手の棚や正面の壁など、要所要所に仕込んだ間接照明の光に加え、床のアクセントタイルによって、全体に流れをつくって誘導しています。ここは、大きな開口部と天窓からたっぷり陽光が降り注ぐ明るい空間です。天井に点検口や設備など、余計なものが露出せず、すっきり美しく見えることにも細心の注意を払いました。
共用廊下やエレベーターホールは、構成する色の種類を絞ることを意識しました。また、雨樋をすべて外から見えない部分に隠すなど、空間をすっきり見せるため、ディテールにまで気を配っています。
各戸の玄関には、扉の上に小庇(こびさし)、袖壁の部分には縦格子のルーバーを設け、落ち着いた趣を演出しています。
住戸プランについては、各階の平面は単純な長方形ではなく中央が膨らんだ形状をしているため、その中で各戸がいかに効率よく広く取れるかを検討しました。角住戸だけでなく中住戸も、間口の広さを生かして廊下をできるだけ短くすることで、より居室や収納の面積が確保できるようプランニングしています。中層以上の住戸のバルコニーからは、視界を妨げるもののない開けた眺望が満喫できます。
ちなみに、このマンションは、野村不動産が分譲マンションの大規模修繕を長周期化する新たな取り組みとして発表した「アトラクティブ30」を初めて導入した2物件のうちの一つです。耐久性が高い部材を採用することによって、大規模修繕のスパンを約12年から16〜18年に延ばすことができ、将来の負担を軽減することができます。
外観のイメージとなった「澪標」のように、この建物がゆくゆくは、街の人々にとって道標のような存在になればと思っています。
※掲載の情報は、2020年7月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部事業推進二部推進一課 伊藤 司
これまで数々の千葉エリアのマンションを担当してきましたが、「プラウド市川マークス」は土地の取得から完成まで全工程に関わった初めての物件だけに、非常に印象に残る仕事となりました。最も苦労したのは、厳しい与条件の中で考え抜いたディテールです。たとえば、澪標をイメージしたコンクリートスラブは外壁から25ミリ出っ張らせることで表情を出していますが、このわずかな凹凸をつけるだけでも大変で、まさにミリ単位の攻防でした。こうした細かなディテールの集積が、全体の美しさにつながっていると思います。