『森の中の隠れ家』を作りたいという想いから生まれた「プラウド杉並方南町」。2021年度グッドデザイン賞を受賞しました。赤く色づく紅葉と秋の日差しの中、担当者が、この物件に込めた想いを語ります。
「プラウド杉並方南町」には、ボリュームある植栽と馴染む外観デザイン、内と外の一体感を持たせたラウンジなど、周辺に配した緑を最大限に生かすため設計上のさまざまな工夫があります。細部に及ぶデザインの見どころを、担当者がさらに詳しく解説します。
敷地は地下鉄方南町駅から徒歩7分の住宅街の一角にあり、以前はテニスコートと月極駐車場から成る広大なスペースでした。建物は建っていないものの樹木はなく、南北をストレートに結ぶ道路がないため、周辺の皆さんはこの敷地を迂回しなければならず、不便を強いられていました。そこで、道路を整備し直したうえで、ここに緑豊かな場をつくることによって、マンションにお住まいの方々だけでなく、地域にも利便性と潤いをもたらしたいと考えたのです。
道路に関しては、敷地の西側に地域に開かれた貫通通路を新設する一方、既存の南側の道路と東側の道路の一部を拡幅し、だれもが通りやすい動線を確保することにしました。
西側の貫通道路は両側にふんだんに植栽を配し、散策が楽しめる小径としてしつらえました。路面は自然な質感が感じられるコンクリートの洗い出し仕上げで、ところどころに石のブロックで描いた曲線は神田川をイメージしたものです。
東側のクランクした路地は一部がわずか90cm幅しかなく、以前は人も自転車もすれ違えず、譲り合って通行するような状況でした。ここは区が所有する敷地内の水路を付け替えることで、幅5〜6mに拡幅することができました。
建物は四周を道路や通路に囲まれているため、どこから見ても表の「顔」となり、かつ周囲に配するボリュームのある植栽に馴染むようなファサードにしたいと考えました。
神田川に面した北側外観は、シンメトリーなデザインと頭頂部に設けた翼のような大庇によって、邸宅らしさと、街のシンボルにふさわしいスタイリッシュさを併せ持つたたずまいを演出しました。
南側は、長大なボリュームの建物の圧迫感を軽減し、ファサードにリズムを与えるため、垂直ラインの部材であるマリオンで分節しています。貫通道路の出入口に通じる南西のコーナー部には、地域の憩いの場となる提供公園を設置。児童館前に明るい広場のようなスペースが生まれました。
植栽は、かつてこの地域に広がっていたであろう武蔵野台地の雑木林をイメージし、高木から低木、下草に至るまで、周辺の自然植生をベースに選びました。植物が重なり合って共生する自然の森や林の趣を再現しています。なかでも象徴的なのが建物の入口にある北西角のアプローチで、緑のトンネルのような木立をくぐり抜けると、ノースエントランスと貫通通路に至ります。
マンションの内部は外の緑を最大限取り込み、自然を享受できる「森の中の隠れ家」のような住まいにしたいと考え、さまざまな工夫を凝らしています。ノースエントランスから一歩入ると、正面の窓いっぱいに広がる中庭の緑が目に飛び込んできますが、これもその一例です。
エントランスの左手には、共用のラウンジがあります。こちらも外構を内部に引き込んだ緑豊かな空間です。開口部はサッシの枠をなくし、内と外の一体感を高めています。室内には応接コーナーだけでなく、Wi-Fiサービスや電源を備えたデスクコーナーも設けました。
共用の外廊下に囲まれた中庭にも植物を植え、緑が身近に感じられるようにしました。足元の緑や砂利のレイアウトは、川の流れをモチーフに、曲線を描いています。
マンションの南側にはもう一つの出入口、サウスエントランスがあります。こちらにはノースエントランスのピクチャーウインドウと呼応させ、自然の緑を暗喩するステンドグラスアートを配しました。
周辺地域は以前は夜になると薄暗く寒々しい印象でしたが、今は温かみのあるマンションの照明が道行く人々を明るく照らす「街のあかり」として機能しています。
このように、マンション周辺の道路環境を見直し、かつての神田川周辺の自然豊かな原風景を彷彿とさせる緑地帯を外周部に設けることによって、マンションに住まう方々だけでなく、地域にも貢献する建物を実現することができました。今後こうした開発を点から線、線から面へと広げていくことで、潤いある街づくりに一役買うことができれば幸いです。
※掲載の情報は、2022年1月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部事業推進二部推進三課 古堅 聡
初めて敷地を見たとき、ここに緑あふれるマンションをつくれば地域にも貢献できるのではないかと思い、これまで何度かお付き合いしてきた造園会社にすぐ連絡しました。特に、緑のトンネルを抜けるようなエントランス前の豊かな植栽は、プロジェクトチームのメンバーが造園会社と一緒に、ディテールまでこだわってつくり上げたもので、本計画がグッドデザイン賞を受賞できたのは、大勢の関係者の皆さんの努力のおかげです。訪れるたびに、周辺住民のかたがたが貫通道路や拡幅した路地を通行する様子を目にするのは、うれしいことですね。