「線路沿いという環境にあっても、心地よく住まえる都市住宅」を再考し、これまでのマンションの常識にとらわれず、多彩な新しい発想を盛り込んだ「プラウド白金長者丸」。2023年度グッドデザイン賞を受賞しました。住宅らしからぬシンボリックで端正な外観、バルコニーをなくして「コンサバトリー」を設けた住戸プランなど、見どころの数々を担当者が解説します。
「白金長者丸」は戦前、名だたる実業家や官僚などが邸宅を構えたといわれる高級住宅街で、JR目黒駅と恵比寿駅の双方から徒歩圏内というアクセスのよさも利点です。「プラウド白金長者丸」の敷地はそんなエリアにありながら、前面道路を挟んで目の前を山手線が走るという環境にあります。
実際に山手線に乗って敷地を眺めてみると、車窓から非常に目に留まりやすい位置にある点が印象的でした。そのため、線路に面した西側の外観は、単に遮音対策を施した堅牢な構えにするだけでなく、思わず目を惹かれてしまうような、これまでのマンションとは一線を画したシンボリックなデザインを目指しました。
線路に面する西側は、遮音対策の観点から各住戸の居室を配する箇所に必要最小限のスリット状の二重窓を設けました。不規則な窓配置から煩雑な印象を感じさせないよう、目地の位置やサッシのディテールをそろえるなどの工夫を施し、ファサード全体をいかに統一感のある洗練されたデザインに見せるかに腐心しました。
外壁は白の顔料を混ぜ込んだ「PC(プレキャスト)コンクリート」を採用しました。石やタイルを貼るのではなく、構造躯体であるコンクリートをそのまま意匠として用いています。さらに、単調で平板なイメージにならず、かつ車窓から眺めた際に視点や時間帯によって異なる表情を見せるように、表面の加工方法にも工夫を凝らしました。
まず、外壁面より奥まった位置にスリットサッシを配し、建物の外壁面を大きく彫り込んだ凹凸のある形状にすることで、彫りの深い陰影を演出しました。
また、平らな部分と斜めの部分の壁面には、異なる表面加工を施しました。平らな部分はコンクリートの表面を研ぎ出すことで粒状の骨材が表れ、シャープさの中にも洗練された趣が感じられます。一方、傾斜した壁面はウォータージェット(超高圧水)加工によって表面を削り出すことで、細かい凹凸が浮かび上がり、より陰影を強調しています。
外観デザインだけでなく、内部のプランニングにも、これまでのマンションではあまり見かけなかった新しいアイデアをいくつも盛り込んでいます。たとえば、前面道路の高低差を利用し、目黒方面からアプローチする1階の「メインエントランス」とは別に、恵比寿方面から地下1階に直接アプローチできる「サブエントランス」を設けました。
写真は中央が駐車場とバイク置き場の出入口、左端がサブエントランスです。地下には各住戸専用の駐輪場兼トランクルームがあり、自転車2台分がしまえるだけでなく、アウトドア用品など、かさばる道具類の収納といった、さまざまな用途に活用できます。また、1階と地下1階には、2層がつながったメゾネット住戸を計画。両フロアに玄関を設けたので、サブエントランスから直接、地下の玄関にアプローチすることも可能です。オンとオフを切り替え、地下に仕事部屋や趣味部屋を設けるなど、多様なライフスタイルを楽しむ可能性が広がります。
一方、電車の音が気になるバルコニーは室内に取り込もうという発想のもと、2階と3階の住戸の多くはバルコニーを思い切ってなくし、代わりにリビングと連続した位置に「コンサバトリー」を計画しました。さらに、ここに都心物件では先駆けとなるガス衣類乾燥機「乾太くん」を実装しました。
ランドリールームとしてはもちろん、植物を育てたり、ヨガを楽しんだり、ペットの居場所にしたりと、「現代の縁側」として多彩な使い方ができる空間です。
共用ラウンジは吹き抜け空間が生かせる地下に配し、1階のエントランスホールと階段でつなぐことで開放感を演出しました。階段脇に配した縦長のシャンデリアはオリジナルデザインで、吹き抜けの天井の高さと空間の伸びやかさを際立たせています。
パーティションを兼ねたブックシェルフの奧にあるラウンジは、華美なデザインではなく、大人の隠れ家のような落ち着きのある空間にすることを意識しました。
「プラウド白金長者丸」が、「都心のどのような環境においても、快適に暮らせる集合住宅はつくれる」という一つの解として、この街に長く生き続けてくれることを願います。
※掲載の情報は、2024年2月時点の情報です
※こちらの物件は完売いたしました。
インタビュー
野村不動産 住宅事業本部事業推進一部推進一課 田嶋 玲奈
今回のプロジェクトは、通常のマンションとは一線を画した外観、バルコニーをなくした住戸プランなど、多様なアイデアを盛り込んだことから、試行錯誤する場面もありましたが、完成後、多くの方々にご評価いただくことができました。なかでも、グッドデザイン賞の受賞は、私たち社内の担当者だけでなく、設計や施工を通じてともに併走してくださった関係者の皆様にも、「よい建築づくりに参加できた」という思いを共有していただくことができ、少し恩返しができたのではないかと思っています。この「プラウド白金長者丸」が今後、プラウドの新たなデザインの方向性の一つとして、長く記憶に残る建築になれば幸いです。