戸建分譲住宅プラウドシーズンが掲げる「永く愛される街並み」の考え方を、夜の景観にも実現する――。
その思いから始まった「街並み照明ガイドライン」は、夜の街を美しく照らし出す、いわば“光をデザインする”プロジェクト。
この後編では、プロジェクトの立ち上げから完成に至るまでのプロセスを、つくり手の話を交えてご紹介します。
プラウドシーズン横濱洋光台 2017年9月〜12月竣工済
街並み全体を優美に照らしながらも、住民の手間とコストは最小限に。そんな「街並み照明ガイドライン」は、住宅と照明のプロフェッショナルが互いの力を結集することで動き出したプロジェクトです。半世紀にわたって住まいづくりに取り組んできた野村不動産と、住宅から店舗・施設まで“あかり”で快適な空間を創造するコイズミ照明が、これまでにないアイデアを形にするためタッグを組みました。
吉井浩介
野村不動産
住宅事業本部
戸建事業部 推進二課
2014年野村不動産株式会社入社。プラウドシーズンの企画に携わる。2014年より「街並み照明ガイドライン」の企画に従事。
折居直純
コイズミ照明
市場開発営業本部
開発推進室 室長
1991年コイズミ照明株式会社入社。コイズミ照明の設計思想構築や独自性商品企画を実施し、今期から開発推進を担当。
熱田友加里
コイズミ照明
LCR東京
第2設計室
2012年コイズミ照明株式会社入社。初めて照明設計をしたのは女性向アパレルブランドの店舗。以来、住宅を始め店舗やオフィス、ホテルなどの照明計画に携わる。
「街並み照明ガイドライン」の策定に向けた準備が始まったのは2014年。それは野村不動産のある気付きから始まりました。
吉井:一般的な夜の住宅街は、単体だときれいに照らされている家はありますが、街全体でみるとばらつきがあり、暗いところも多い。昼の景観にこだわったプラウドシーズンとして、夜の景観づくりに対しても何かできることがあるのではないか。それが実現できれば、住民の方に一層愛着をもっていただける街になるはずという思いがありました。しかし、街全体を俯瞰した照明計画という発想はこれまでにはなかったものです。そこでコイズミさんに、パートナーとして話を持ちかけたのが発端です。
折居:野村さんからのリクエストは「街並みを昼も夜も美しくしたい」というシンプルなものでした。これまで数多く照明設計を手がけてきた中で、そういったプロジェクトは特定の街単位ではありましたが、様々な街に応用展開できる汎用的な仕組みづくりは初めて。ある種の規範というか、街の光を体系化する試みです。
野村不動産が求める光について、コイズミ照明は屋内空間の照明ノウハウを応用でき、コイズミ照明が今後力を入れたい街並みの照明の現場は野村不動産にあることから、お互いのニーズが合致。街並み照明のルールづくりを行い、すべての街にできる限り同じクオリティの照明を導入するための、これまでにない試みが始まりました。
プロジェクトはまず、両社と外構設計業者による実地調査からスタート。大小様々なタイプがあるプラウドシーズンの現場を訪れ、検証を重ねるところから始まりました。
熱田:弊社の照明をいろいろ販売前のプラウドシーズンに持ち込んで、住宅や門柱、植栽などに様々な角度から光を当てて、その効果を検証しました。照明器具にも明かりの範囲が狭い光・広い光とタイプがあるので、その種類によってどう感じ方が変わるかといったことを、吉井さん、設計会社さんと一緒に確認しながら、住戸がより美しく見える照明のあり方を話し合いました。
また、実際に住まう方の気持ちになって街を歩きながら「この奥が暗いから誘導灯が必要なのでは?」といった議論をして、街全体の設計も同時に考えていきました。
実地調査に加えてデジタル上での3Dシミュレーションも行い、約1年をかけてわかってきたのは、街全体の照明デザインは街区計画の初期段階から一体的にプランニングする必要があるということ。
これまでの照明計画は、街並み設計の最終段階で“付随的に”行われるイメージがあり、かつ住戸ごとに実施されるので統一性という観点が弱かったという難点がありました。
しかし今回の検証により、前編でご紹介した「環境光」「目的光」「演出光」の3種類の照明をどのように配置していくのかを考える新しいプロセスを、街並みを企画する最初の段階から取り入れることになりました。
1街並みを企画する最初の段階で、街の形状に合わせてあかりの配置を計画
2建物(住居など)を計画する際にも照明計画を同時に設計する
3外構(建物の外側にある構造物)の計画でも街全体としてあかりのバランスを考える
4計画通りのあかりを実現するために最適な照明器具の選定をしていく
吉井:最初の段階から現地に行って、たとえば「駅に近いこの辺りは街の“顔”になる」など、図面ではわからない現地の環境を考慮してイメージを膨らませました。
プラウドシーズンは数戸だけの街並みもあれば、数百戸規模の大きな街並みもあります。それぞれが最も美しく映える夜の光を設計段階からプランニングするのは、言わば“光のオーダーメイド”。そしてそれは、行政が担当する街灯にも及びます。
吉井:街に設置されているいわゆる「防犯灯」や「街灯」は、暗い住宅街を照らすために、無機質な蛍光色のものを行政が規定している、という課題がありました。
せっかく街並みをあたたかみのある電球色の照明でデザインしても、まぶしい昼白色の街灯ひとつで台無しになってしまいます。そこで行政に何度も赴いて、プロジェクトのコンセプトと防犯灯を補える十分な明るさと安全性がある照明計画であることを説明。電球色の防犯灯の性能についても説明し、ひとつひとつ交渉して許可取りを行っていきました。自治体によって規定の厳しさが違うため、どうしても実現できないケースもありますが、できる限りトータルで美しい街並みになるように調整を重ねました。
プラウドシーズン吉祥寺本町 2017年5月竣工済
ただ美しいだけでなく、安心に繋がる明るい街並みを実現するために取り入れたのは、「歩く人の視点に立った」配置でした。
熱田:街並みの照明を計画する上で、街全体をひとつの大きな家として捉えることにしました。たとえば「玄関は普通明るくしておくもの」「廊下の突き当たりが暗いと危ない」といった家の中での感覚を街全体にも当てはめ、住民の方と同じ“移動する視点”で考え、あかりに役割を与えました。
もちろん、照明の検証は街並みだけでなく、一戸一戸の家に対する細部の照明のあて方や配置など、光のディテールにも及びます。プラウドシーズンでは建物ひとつひとつは形状も個性も異なるため、それぞれに適した照明器具の種類と設置場所を検証することで、どのような家でも美しく照らすことができる仕組みを構築しました。
また、光と建物の距離が変わることで建物の見え方が変わる性能も利用し、最も美しく見える照らし方を追求していきました。 現場で検証しながらミニチュア模型や3Dシミュレーションで全体を俯瞰。あかりの必要性に応じて外壁の一部を照明が映える意匠に変えるなど、一つひとつ細部にいたるまでブラッシュアップを重ねていきます。その徹底した取り組みによって、個々の家の個性を損なうことなく、街並み全体として統一感のある美しい風景が生み出されるのです。
プラウドシーズン吉祥寺本町 2017年5月竣工済
美しい夜の街並みづくりはあかりの配置や照らし方のロジックだけではありません。家を魅力的に照らしながら機能性にも富んだ、新しい照明の開発も行いました。
折居:通常、外灯は「ひとつの照明で全体を照らす」ことを前提としているので、白熱球60ワット~100ワット相当の比較的強めのものが主流です。しかしそれでは光を分散させて、主役である住宅や街並みを美しく照らすという今回の照明計画にそぐわない。それにいくら家や街が美しくなるといっても、電気代が多くかかってしまっては住民の方の負担となってしまい、照明をつけるのがためらわれます。そこでひとつあたりの電力を白熱球40ワット相当まで下げて、業界最小サイズのLED照明を新開発。消費電力10分の1、省スペース化を実現し、照明をさりげなく配して建物を照らし出せるようにしました。また、光源がむきだしにならないように、用途に合わせてまぶしさを抑えるフードもオプションで取りそろえるなど、様々な展開ができるようにしました。
こうして約3年の月日をかけて「街並み照明ガイドライン」を策定。策定後に建てられたすべてのプラウドシーズンに導入されています。さらに外構設計業者だけでなく建物設計者やデザイン会社といったプラウドシーズンに関わるすべての協業者に向けての説明会や勉強会を実施し、一つひとつの街並みに合った照明計画をデザインしていけるように、引き続き取り組んでいます。
そして、一つとして同じプランのないプラウドシーズンの夜の街並みを美しく照らす経験を重ねる中から、新しい取り組み・ブラッシュアップへの挑戦も生まれています。
吉井:街並み照明ガイドラインは「街を歩いて考えた」プランですが、たとえばリビングから見える庭やテラスのあかりのあり方など、家の中からも街並みとの一体感を感じられるようなあかりのアプローチができないかと計画しています。
外から帰って来た時にほっと安心したり、街への帰属意識を感じる今の照明デザインに加えて、家に居ながらも街とのさりげない繋がりを感じられたら、住まう街としての愛着が一層湧いてくるのではないでしょうか。
住宅と照明。それぞれのプロフェッショナルがお互いの叡智を結集し、細部に至るまで仕組みづくりを徹底することで、美しく、かつ機能的な夜の街並みを実現したプラウドシーズンの「街並み照明ガイドライン」。今後も“光”を一つの切り口として、「快適で安全な暮らしを届ける」というミッションの追求は続いていきます。
グッドデザイン賞は、さまざまに展開される事象の中から「よいデザイン」を選び、顕彰することを通じ、私たちの暮らし、産業、そして社会全体を、より豊かなものへと導くことを目的とした公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」です。グッドデザイン賞を受賞したデザインには「Gマーク」をつけることが認められます。「Gマーク」は創設以来半世紀以上にわたり、「よいデザイン」の指標として、その役割を果たし続けています。
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