住民だけでなく、地域の安心・安全を視野に入れた「ミマモルタワー」こと、「プラウドタワー木場公園」。家族を見守り、地域を見守るタワーという発想はどこから生まれたのでしょうか。後編ではプロジェクト担当者に、この取り組みに至る背景と、未来を見据えたマンションの在り方について聞きました。
当初、この土地にはビルと屋敷、屋敷に続く庭があり、江東区が「水辺と緑のネットワーク」と名づけた場所に位置していました。 「緑深い公園と水が流れる憩いの場に囲まれたこの敷地に、大きな建物を建てるということは、どういう意味を持つのだろうか」と考えを巡らせたのは、もう5年前のことです。 江戸時代は木材を運ぶ運河として利用され、明治以後も貯木場として栄えたこのあたりは、現在、木場公園として区民の憩いの場となり、河川は親水公園として整備され、当時の面影を留めています。
当初は、木場公園と木場親水公園という緑豊かな二つの公園に恵まれた敷地の約8割にマンションを建てるという計画でした。
しかし、それではこの緑豊かな景色を変えてしまうかもしれない……。そう感じた私たちは、総合設計制度の可能性を探ることにしました。
総合設計制度というのは、敷地内に、所有者以外の地域住民らが自由に通行・利用できる「公開空地」を設けることにより、高さ制限や容積率などの基準を緩和してもらうというものですが、この制度を使ってタワー形状の設計に変更できれば、近隣への影の影響も少なくなり、なによりも、マンションの敷地そのものが、隣り合う公園の緑の風景をつなぐ存在になれるのではないか、と考えたからです。
従来のタワーマンションは、住む人にとってはステイタスのような存在で、街に対しては、ランドマーク的な存在としてその価値を高めていました。しかし今回は、このマンションが建つことで、地域や社会にどんな貢献ができるのか?という新たな価値を創るという挑戦でもありました。
さまざまな協議を重ね、27階建てのタワー形状へと舵を切ったプラウドタワー木場公園は、結果的に敷地の約5割を「公開空地」とし、“地域に対して開いた”そして“周囲の緑をつなぐ”存在となりました。
タワー形状の設計にすることで、プラウドタワー木場公園は4方位に「公開空地」を設けることができました。
前編でもご紹介しましたが、具体的には以下のようなスペースで、いずれも地域の人々も敷地内を利用できます。
①北側:親水公園「じゃぶじゃぶ池」との境界に5ヶ所のオープン階段を設け、それを見守るようにオープンカフェを開設
②西側:親水公園を眺められる広場や、川が流れるイメージの散策路を設けたガーデン
③南側:敷地内に約70mの貫通道路をつくることで、東西の往来が可能に
④東側:木場公園との間にある、三ツ目通りに面した緑の歩道
マンションの着工前、敷地の境界には約1.5mの段差があり、公園側が低いため、高い壁で囲われ、閉ざされた空間でした。
この計画が実現したことで、その壁を撤去し、段差を利用したオープン階段を設けることができ、北側のじゃぶじゃぶ池のまわりは広々と見通しの良い空間に生まれ変わりました。
着工前:マンションの敷地の高低差約1.5m+擁壁で、塞がれていた境界
竣工写真:階段を設置し、公共と民間の境界を開放し、立体的かつ緑でゆるやかにつなぐ
夏真っ盛り、じゃぶじゃぶ池で遊ぶのは、マンションに住む家族はもちろん、地域の人びとや近隣から遊びにやってきた家族連れなど。水遊びではしゃぐ子どもたちを階段に座って見守る家族の姿は、計画時から想像していた光景でした。
さらに、建物内の一部にオープンカフェをつくり、かんたんな食事や休憩を取れるスペースを提供したことで、住民同士、住民と地域の方々の交流が自然に生まれています。
つまり、敷地の約5割を公開空地で開放することによって、周辺を見晴らせるようになり、さらに新しい道ができることで人との交流が生まれ、誰かがいるという安心感が得られるようになったのです。これは、本当の意味での安心安全につながるものだと、私たちが考えていたことでした。
安心安全というと、ハード面セキュリティ面において守ってもらうものと考えがちですが、地域社会や住民の安全安心は、健全なコミュニティが醸成され、守り続けることで得られると思うのです。いざという時に誰かが駆けつけてくれるのを待つのではなく、日頃から互いに声をかけあい、ゆるやかに見守り合う――プラウドタワー木場公園は、きっとそんなコミュニティづくりの舞台になってくれることでしょう。
実は、この「ミマモルタワー」という発想には、もうひとつの意味があります。
それは、隣接する深川消防署と連携し、万が一の災害時には地域の安全確認のためにマンションの屋上を「物見櫓」として開放するという役割です。まさに、木場の街を「ミマモル」タワーです。
この発想は、実は消防署の方からご提案いただいたものでした。屋上開放に加えて、建物内に災害時に備えた物資を収納するスペースや、敷地内に地域住民の避難スペースを提供するなど、将来的には自治会や管理組合が防災組織をつくり、街の防災拠点になっていくことを意図しています。
こうした取り組みは、少なくともプラウドマンションシリーズでは初めての試みであり、地域社会に対する責任や貢献の象徴のような意味があると考えます。
声高に主張することではないし、住民の方々にとってわかりやすいメリットではないかもしれません。けれど、建物が建つもうひとつの意味として、いつの日か、こういうタワーマンションに住んでいるということを少しだけ誇りに思っていただけたら、それは、新しい価値を生み出すことに成功したということです。
タワーマンションのあり方は、新しいステージへと進化を遂げています。
街と住民が緑のスペースでつながり、ゆるやかに見守りあう。
その街を、タワーが見守る。
地域に貢献するタワーマンションのあり方が、「あたりまえ」となる日が来ることを願っております。
<プロフィール>
2001年、野村不動産株式会社入社。首都圏エリアのプラウドのマンション企画、事業推進業務に携わる。現在は商品戦略部にて、商品企画および開発の業務を担当している。
グッドデザイン賞は、さまざまに展開される事象の中から「よいデザイン」を選び、顕彰することを通じ、私たちの暮らし、産業、そして社会全体を、より豊かなものへと導くことを目的とした公益財団法人日本デザイン振興会が主催する「総合的なデザインの推奨制度」です。グッドデザイン賞を受賞したデザインには「Gマーク」をつけることが認められます。「Gマーク」は創設以来半世紀以上にわたり、「よいデザイン」の指標として、その役割を果たし続けています。
※掲載の情報は、2019年1月時点の情報です