東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた女川町は、現在、シーパルピア女川を中心に新たなまちづくりが進んでいます。町中のあちこちで見かける、色鮮やかなスペインタイルの数々。このカラフルなタイル模様が住人に元気を与えています。 最終回は、細やかで丁寧な工程で一枚一枚心を込めて仕上げ、復興の彩りを生み出している「みなとまちセラミカ工房」でまちづくりのお手伝いをしました。
10月21日、約60名の野村不動産マンションオーナーが、仙台駅前のTKP仙台カンファレンスセンターの1室に集まりました。参加者を出迎えたのは、女川町からやって来た「みなとまちセラミカ工房」代表の阿部鳴美さんと3名のスタッフ。阿部さんは、スペインタイル製作に着手した経緯とその理由を、スライドとともに教えてくれました。
「以前は、陶芸を趣味に楽しむ普通の主婦だったんです」と微笑む阿部さん。被災後しばらくして仮設住宅に落ち着いた頃、女川と地形が似ているスペイン・ガリシア地方との異文化交流の話しをきっかけに、スペインタイルに出会いました。そのカラフルな色使いと細やかな作業工程に阿部さんはすっかり魅了され、東京のスペインタイルアートの教室へ通いはじめました。修行中に研修で訪れたバレンシアでは、日本人の陶芸家がタイルアート作家として活動している工房や博物館などを視察。あちらこちらにスペインタイルが散りばめられた街はとても明るく色鮮やかだったそうです。震災後、瓦礫で一面灰色になってしまった女川の町を、スペインタイルで明るく彩りたい。女川の復興への思い、スペインタイルとの出会いが、阿部さんの活動スタートの端緒となりました。 2012年6月「きぼうのかね商店街」の仮設店舗の工房でスタート。徐々にファンを増やしていきながら、15年冬からは、女川駅前の本設商店街「シーパルピア女川」のおしゃれな工房で製作を続けています。
女川町におけるスペインタイルの役割を学んだ後、参加者はタイル彩色にチャレンジ。合計2枚を手がけ、1枚を手元に、もう1枚を女川町「地元市場ハマテラス」前の壁面に飾る『メモリアルタイル』の製作に取り組みました。 まず、事前に用意された図案をそれぞれ好みで選び、カーボン紙を使ってタイルに転写。その線の上を、濃い目の鉛筆で3回程度なぞります。その線の内側に、スポイトを使って専用の絵の具を塗布。特に複雑な絵柄はとても繊細な作業が求められましたが、参加者はみな思い思いの色を選びながら、2枚1組を完成させることができました。 彩色が済んだタイルは集められ、工房の窯で焼き上げられます。たくさんの未完成のタイルを前に、参加者の表情はみな仕上がりが待ち遠しい様子。阿部さんは、「スペインタイルの製作は、震災で色を失ってしまった町を復興させる課程に似ています。皆さんの作ったタイルが、新しい女川町の賑わいとなりますので、ぜひお越しいただいて確認してください」と呼びかけました。
参加者が色づけしたタイルは、シーパルピア女川にある工房へ。ここでは、十分な乾燥を経た後、陶芸用の釜で1,000度近い熱によってじっくり焼成。絵の具の成分が高温で変容し、独特の発色と光沢が生まれました。「どれも個性的で素晴らしい仕上がりになり、美しい柄のタイルが生まれました」と阿部さんはニッコリ。記念の一枚は参加者の手元に発送され、もう一枚は「地元市場ハマテラス」の壁面に加わる日を待っています。 「皆さんの思いが込められたタイルが、これから女川町の未来を明るく彩ってくれると期待しています。今後もたくさん方たちと一緒にスペインタイルを手がけ、1,000年先まで残していければと思っています」と語る阿部さんは、愛おしそうに焼き上がりのタイルへ視線を注いでいました。
今回、プラウドカスタマークラブメンバーが参加したメモリアルタイル製作のほか、女川町の災害公営住宅居住者たちと一緒に大きな壁画を作る「おらほの壁画プロジェクト」も行っています。一枚の図案を元に、10cm四方のタイルへ壁画の一部を描き写し、居住者たち自身が彩色。焼き上がったタイルを集めて完成した巨大なタイル画を、集会スペースの壁などに掲示しています。観光での思い出づくりだけでなく、まちづくりの支えや住民たちの新たな交流も生み出している活動を展開しているみなとまちセラミカ工房。「製作の時間を楽しんでくれるのはもちろん、完成品に喜んでもらえるのがうれしいですね」と阿部さん。スペインタイルがつなぐまちづくりの輪は、今後も大きく広がりそうです。